大手監査法人での監査実務、事業会社の経理財務、税理士法人の勤務を経た後、村上裕一公認会計士事務所を立ち上げる。
仮想通貨の税金を専門とする税理士として、仮想通貨の様々な税金のご相談や顧問を手掛け、多くのお客様の仮想通貨の税金のお悩みを解決しています。
仮想通貨の税金は分離課税の対象ではない
村上裕一公認会計士事務所
代表 村上裕一
こんにちわ。公認会計士・税理士の村上です。
本日は、 仮想通貨の税金の計算が、分離課税ではなく、総合課税の対象となる点について解説します。
これを読むことで、仮想通貨の税金のざっくりとした仕組みが理解できます。
総合課税と分離課税の違いも理解できます。
また、今後の仮想通貨に対する税制の変更についても考察します。
分離課税・総合課税とは?
総合課税とは
まず、総合課税・分離課税の説明から入ります。
総合課税とは、給与所得や事業所得、雑所得など総合課税の対象となる所得を合算して、合計の金額に対して税率を乗じることで税金を算定する方法となります。
すなわち、総合課税における税金の計算方法は
(総合課税の他司法の所得を合算した金額)×税率=税金
となります。
詳細は下の方で解説しますが、総合課税の税率(所得税及び住民税)は15%~55%であり、所得が高ければ高いほど税率が上がることとなります。
分離課税とは
続いて、分離課税の説明です。
分離課税とは、株式の売却益やFXのように、それぞれ個別に定められた税率を乗じることによって税金額を求める方法のことを指しています。
すなわち、分離課税の下においては
・株式の売却益×株式の税率=株式売却にかかる税金
・FXの売却益×FXの税率=FXにかかる税金
のように、個々の税率を適用することによって算定されるものとなります。
総合課税との違いは、個々の税率は決まったものであり、所得が多くなったとしても一定の税率が適用されるという点です。
例えば、株式の売却であれば、株式の売却益の多寡にかかわらず、20.315%が適用されます。
仮想通貨の利益は総合課税の対象となる
仮想通貨から得られる利益ですが、総合課税の対象となっています。
すなわち、仮想通貨で得られた利益は他の総合課税の対象の所得と合算されて税率が決定されることになります。
事業所得や給与所得などの総合課税の対象となる所得と、仮想通貨で得られた利益を合算し、その合算した金額に税率を乗じることによって、税金が決まってくることとなります。
仮想通貨の利益は累進課税制度の対象
仮想通貨の利益は累進課税制度の対象
仮想通貨の所得ですが、総合課税の対象となるために、超過累進課税の対象ともなっています。
超過累進課税とは、所得が多ければ多いほど段階的に税率が上がることを意味しています。
すなわち、仮想通貨で得られる利益が多ければ多いほど高い税率が適用されることとなっています。
通常、仮想通貨投資を行う方は会社員や個人事業主などであり、本業を持っている方となります。
つまり、本業の収入(給料や事業所得)に、仮想通貨の利益を合算した金額をベースに税率が決まってくるのです。
そのため、結果として、本業での所得と仮想通貨投資の利益を合算した金額は大きくなりがちです。その高くなった金額に高い税率を乗じるので、仮想通貨投資の利益に対する税金は総じて高くなりやすいのです。
総合課税の税率とは
では実際に超過累進課税の対象となった場合、どれくらいの税率が適用されるかについて解説します。
まず、適用される税金の種類ですが、①所得税 ②住民税の2種類が存在します。
(細かいですが、復興特別所得税として所得税の2.1%もありますが、この説明は割愛します)
①所得税
所得税の税率は国税庁HPに記載があります。
下記の表が所得税の税率となっています。
【所得税の早見表】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~1,949,000円 | 5%
|
0円 |
1,950,000円~3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円~6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円~8,990,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円~17,990,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円~39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円~ | 45% | 4,796,000円 |
上の表のとおり、税率は5%から45%と徐々に増加しています。
②住民税
住民税の税率は、10%と固定の税率となっています。
そのため、①と②を合算した税率は15%~55%となっています。
なんと最高税率は55%になるのです。
これが「仮想通貨で爆益が出たら、半分以上が税金として徴収される」と言われている理由の一つです。
すなわち、本業の収入(事業所得or給与所得)と仮想通貨の利益を合算して4,000万を超えていれば、その超えた部分については最高税率の55%が適用されることになっています。
億り人は何と半分以上が税金
結果として、いわゆる「億り人」と言われる仮想通貨の利益で1億円を超える収入を得た人がいますが、上記の計算に従って算定すると半分以上が税金となってしまうのが、現状の税制に従った処理となります。
仮想通貨の利益だけで1億円を超えるのであれば、所得の合計が1億円を超えます。4,000万以上の利益に対しては最高税率の55%が適用されますので、納税額が仮想通貨投資の利益の半分を超えるケースが起こってしまうのです。
今後の税制変更について
FXは総合課税から分離課税へ変更された
それでは最後に、今後の税制改正について、税理士の観点から考察していこうと思います。
まず、FXの税制改正について解説します。
FXは現在では仮想通貨と同じ「雑所得」に分類されているものの、計算方法は「分離課税」となっています。
すなわち、FXは利益の多寡にかかわらず、
FXの利益×20.315%の固定の税率を乗じることで税額が決まることとなっています。
仮想通貨投資の税金と比べると、かなり低い税率になっています。
ですが、FXは、最初に登場した時は、「雑所得かつ総合課税の対象」でした。
すなわち、FXの税制は、当初は仮想通貨の税金計算と全く同じだったのです。
ですが、FXの利益にかかる税制は後ほど変更され、固定の税率が適用されることとなり、今の「雑所得かつ分離課税」となりました。
分離課税の対象にすることで、一定の税率となり、FXにおいて仮に爆益が出たとしても同じ税率を適用することとなりました。
FXと仮想通貨は、比較的最新のものであること、(他の収入に比べて)爆益が出る可能性が高いことの2点で共通しています。
同様の税制改正が仮想通貨投資においても期待できるかもしれません。
日本仮想通貨ビジネス協会が分離課税を要望
さらに、JBCA(日本仮想通貨ビジネス協会)が、仮想通貨に関する税制改正の要望事項として分離課税を要望しました。
その要望の骨子は以下の通りです
①暗号資産(仮想通貨)のデリバティブ取引について、20%の申告分離課税であり、損失については翌年以降3年間、デリバティブ取引に係る所得金額から繰越控除ができることを確認する。
②暗号資産(仮想通貨)取引にかかる利益の課税方法は、20%の申告分離課税とし、損失については翌年以降3年間、暗号資産(仮想通貨)にかかる所得金額から繰越控除ができることとする。
③暗号資産(仮想通貨)取引にかかる年間利益20万円いないの少額非課税制度を導入する
要は、仮想通貨の税金も、株や国内FXと同じような一定の税率(20%)を適用し、損失繰越ができるようにしてほしい旨を要望しています。
今後の動きに注目
以上が仮想通貨の税制に関する最近の動向です。
実際に、JBCAの要望を受けて税制を変更するかどうかは、ブログ記載時点(2021年4月)では未定ではありますが、一般的に日本の仮想通貨投資の税率は、海外諸国の仮想通貨の税率よりも高い水準となっています。
例えば、アメリカにおいては仮想通貨の利益はキャピタルゲインとして扱われています。10%から40%までの税率を適用することになっていて、日本の税率(最高55%)よりは低い水準となっています。
今後の税制改正の動向についてまだ未公表ではありますが、今後、仮想通貨投資に関する税制が変更する可能性はゼロではありません。
引き続き、仮想通貨の税制の変更について注目していきたいと思います。